幻想郷ライン ぶらり幻想郷周遊乗車券
Episode01 「ひまわりのように。」
連動楽曲:よすがの恒星
文:桜内まつり
陽がのぼり、幻想郷に新しい朝が訪れる。
もちろん私、村紗水蜜にも朝がやってきた。
昼が延び太陽は高く影は短く、もう気分はすっかり夏だ。
青い空の下、この大地を、他でもない自分の足で踏みしめる一日が始まった。
「ぎゃーてーぎゃーてー!あ!ムラサさんおはよーございまーすっ!」
「おはよう、響子ちゃん。朝から元気にお掃除ありがとうね。」
彼女は幽谷響子、やまびこの妖怪で最近ここ命蓮寺に入信した子。
「いえいえ!これも教えですから!今日は出発が早いんですね?」
「うん、また例の電車に乗っておでかけしてこようと思って。すこし遠くまで」
例の電車と言っているのは、幻想郷中をぐるっと回れる乗り物のこと。
この”ぶらり”と名付けられた券があれば、目的地がどこであっても乗り放題。
開通式が行われた冬も明け桜が散り宴が終わり、季節は一歩ずつ歩いている。
定刻通りにやってくる幻想郷ラインに乗ると発車メロディが鳴る。
「行ってきます!」
今や創設者の八雲紫やその関連者は乗車しておらず自動で運行している。
えっ、電車なんて乗らずとも飛んで行けるじゃないかって?
それはこの旅の醍醐味がわかってないですね。
車窓から見える景色は長い絵巻物のように続いていくんですよ。
その色々を発見できたときが大変うれしくて、持ち帰り話にして。
「ここが太陽の畑、かあ…?」
一面に広がるまだ本咲きには早いはずのひまわりの花。
…あるものといったらそれしか見当たらない。
きれいというよりは不気味とすら感じる。
「誰もいないのかな……。少し歩いてみるかな?」
歩いても歩いても景色はひまわりだ。
海底や地底をにいた頃を思い出してしまう。
最も、その頃がなければ私は今ここにいないのだけれど。
静寂の中草をかき分ける音が聞こえた。
「…人!どちら様で!」
「どちら様はこちらのセリフよ……あ〜巫女がやってるアレで来たのね」
指が差す方向には先程降り立った駅がある。標識はどの駅も共通だ。
「はい、電車で旅をすることが最近のマイブームでして……」
「ここは私の管理している庭よ。一応聞くけど花を抜いたりしてないでしょうね」
「とんでもない!花は一つ一つが根を張って生きてるんですよ。
ここにいていいっていう幸せを奪ったりしないですよ。少なくとも私は。」
「そう……なんか似てるわね。」
「え、誰に?」
問いかけに返答はない。なにか触れるようなこと言ってしまったのかな…
と思っていたら満面の笑みと興奮気味な声で握手しながら手を振り回される。
「それなら大歓迎よ〜っ!花を大事にする人に悪い人はいないわ!」
「は、はは…!なんだ…怒らせちゃったこと思って身構えちゃいましたよ……」
なんだか拍子抜けしてしまう。大妖怪かなにかと思ってたのに案外気さくで。
「ちなみにお名前はなんていうんですか?私は命蓮寺から来たムラサといいます」
「ムラサちゃんね。私は風見幽香。フラワーマスターと呼んでちょうだい。」
「ところであなた元幽霊よね。さっきの言い回しといい何かあったふうな。」
「昔話になりますが聞いてくれるんですか?
ムラサ…いえ村紗水蜜の千年と数百年前の出来事を。」
「花のわかる人ってわかったなら聞くわ、あなたの今昔を」
ーー私は今でこそ妖怪になっていますが、もともとはひとりの人間でした。
あるとき航海船に乗っていたときのことです。
その船は事故を起こしてしまい乗員全員が命を落としました。
以降幽霊になった私は近くを通る船という船をあらゆる手段で沈めてきました。
嵐を起こし、船に水を汲み、死に至らせる呪いの毎日でした。
そこからいろんな経緯があって僧侶、聖白蓮が私を救ってくれたんです。
次は地底に閉じ込められてしまいましたが前の異変で地上に復活させられました。
今は命蓮寺で暮らしていますがこの生活があること毎日感謝しているんです。
でも特にやる役割もなく生きていていいのかなってたまに思うことがあって…。
対して聖はまさに太陽のように輝いてみんなから頼られる大変優しいお方です。
「あっあの…長話に付き合わせてしまってすみません…久々にこれ話しました」
「そう、太陽ね。ちょっと待ってて、船妖怪さん」
一言を残して幽香さんは奥の方へいなくなってしまった。
(いろんなことがあるなあ……あ帰ってきた)
「妖怪さん、この花をその太陽のお方に渡すといいわ。」
「わあっきれいなひまわり!太陽の方向へ輝いていて…ありがとうございます!」「そしてこれはあなたへ。うんっ似合うわ!」
この花って……記憶が巻き戻るように蘇っていく。
「村紗ほんとうにひとりで大丈夫?」
「母さん大丈夫だよ、きっと帰るよ」
「といっても船旅は心配よ…。村紗にこれ!はいどうぞ」
「花なんて可愛いものはいいっていってるのに。行ってきます」
髪に付けてもらったのは確かに人間最後の日に母からもらったスイレンだ。
ああ…ああ…私最後にありがとうを言えなかった。
眼から涙が零れていく。心から想いが溢れていく。
聖という太陽の方角をみつめる私はひまわりだ。
「また会いましょう!水蜜ちゃん。お寺のみんなが待ってるわよ。」
「幽香さんありがとうございます!はい!また!」
「よすがの恒星」
私の居場所 未だ此処にあると ずっとずっと離れられない
今日日も明日も 輪廻に続く日々 絶ち切れずに居る『未練』
運命の宿った境界線 差し伸べられた掌には
貴方がくれる 希望と優しさの未来
私は涙を流しながら微笑んで 水鏡に映る心から溢れる想い
呪われた日々も 怖る過去も 今禁忌となりて
揺らめいた世界 立ち込む雲
此の忌が消えた 其の意味を深く 貴方の掌を握って――
今日日も明日も 変わり経った情景 『未練』はもう此処に無い
運命の宿った境界線 あの日までの記憶は
忘却の彼方へ 私は貴方と在る
私は涙を流しながら微笑んで 今迄の私 自分自身 抗い抜いて
呪われた日々も 怖る過去も 今禁忌と成りて
恐れる事無く 先を見つめ
貴方を信じて 思想巡らせて 私も貴方の様に――
感謝を伝えたい 貴方に出会えた事へ
貴方はいつまでも 誰かに寄り添って
輝き続けて欲しい 私は願い――
私は涙を流しながら微笑んで 水鏡に映る心から溢れる想い
呪われた日々も 怖る過去も 今禁忌と成りて
揺らめいた世界 立ち込む雲
此の忌が消えた 其の意味を深く 貴方の掌を握って――
「あなたの役割は生きて生きて生きることよ、水蜜ちゃん。」
つづく
【楽曲情報】
作曲:ZUN 編曲:桜内まつり
タイトル:よすがの恒星
作詞:匿名運転手U
原曲:感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind、キャプテン・ムラサ
うた:ふうかまりを (@mariwonette)
インストバージョン↓
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